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リウマチ性多発筋痛症のはなし

はじめに

リウマチ性多発筋痛症(PMR)は、お元気な高齢者が急に動けなくなる、ありふれたリウマチ性疾患のひとつです。今でこそPMRという病気は有名になりましたが、その診断には多くのピットフォールがあり、安直な診断は患者さんの不利益に直結します。今回は注意すべきポイントを整理したいと思います。

典型的なパターン

これまでに出会った多くのPMR患者さんからのお話をまとめると、こんな感じです。

「私は後期高齢者になりましたが、ふだんはとても元気です。

しかし、ある日の朝から、急に首・肩・腰まわりに痛みやこわばりを感じるようになりました。

症状は朝起床時が一番つらく、午後になるとましになります。

日ごとに寝床から起き上がれなくなり、さらに手足まで腫れてきました。

近くの整形外科を受診しましたが、病状の説明がないまま、痛み止めの処方とリハビリの指示が出されました。

痛み止めを毎日のみながら、リハビリも熱心に通いましたが、一向によくなりません。

救いを求めて、知人から勧められた整体や鍼灸にも通い始めたんですが、相変わらずで…」

どういう病気か

からだには、滑液包という少量の液体が入った袋状の構造物が、腱と骨の間、腱と筋の間、皮膚と骨の間などに存在しており、互いの摩擦を和らげるクッションのような働きをしています。

高齢者ではこの滑液包が急に炎症を起こすことがあり、これをリウマチ性多発筋痛症(PMR)とよんでいます。

滑液包の炎症が、肩関節周囲、股関節周囲、頸椎・腰椎棘突起間で起こると首・肩や腰・大腿に痛みやこわばりが生じ、手背足背で起こると手足がぱんぱんに腫れます。

60歳以上に多く発症し、発熱、食欲不振、体重減少、倦怠感、うつ症状などを伴うこともあります。

治療法

PMRではステロイドの内服(PSL15mg/日で開始)が著効します。

痛み止め(NSAIDs)の内服は効果がありません。

ステロイド治療に速やかに反応する点がPMRらしさのひとつとされています。

「あれだけつらかった痛みやこわばりが嘘のようになくなった」と皆さん笑顔でおっしゃいます。

「かかっていた呪いが解けて本当によかったですね」が、私のいつもの決め台詞です。

今後は、ぶり返しがないことを確認しながら少しずつステロイドを減量していき、最終的には少量で維持するか、中止を目指します。

ポイント①
  • PMRは結構見逃されています。
  • PMRという病気を自ら知っておくことが大切です

「PMRっぽい」は要注意

臨床的には、

  • 高齢者が急に四肢近位部の痛み・こわばりを訴えて動けなくなる
  • 血液検査では、炎症反応(CRP陽性)を認める

場合に、「PMRっぽい」と考えます。

しかし、これだけの情報で「PMR」だと決め打ちしてしまうのは御法度です。

つまずき症例(モデルケース)

80代女性の話です。

自宅で急に体の痛みを訴えて動けなくなり、家人に連れられて前医を受診しました。

担当した医師は、血液検査で炎症反応の上昇を確認すると、

「これは絶対、リウマチ性多発筋痛症ですよ」と得意満面に説明し、

追加の検査は行わずに、ステロイドの投与を開始しました。

その後の患者さんは…

体の痛みはよくなるどころか日増しにひどくなり、

さらにはボーっとして反応が乏しくなり、

家人が救急要請して高次医療機関へ緊急搬送される事態となりました。

搬送先では…

もともと肺炎球菌による肺炎から菌血症をきたしていたこと、それがさらに脳や全身の関節の中にまで広がっていることが判明しました。

本症例の問題点は、菌血症による「PMRっぽい症状」を「PMR」と早とちりし、
火(細菌による炎症)に油(ステロイド)を注いで大炎上(重症敗血症)を招いたことです。

除外診断が基本

「PMRっぽい症状」は、菌血症(特に感染性心内膜炎)、血管炎(特にANCA関連血管炎)、関節リウマチでもみられます。

これら疾患は、最適な治療法がそれぞれ異なるため、ていねいに除外することが大切です。

菌血症は、抗菌薬で治療を行い、ステロイドは禁忌です(つまずき症例)。

血管炎は、免疫抑制剤+大量ステロイドという、かなり強力な治療が必要です。

関節リウマチは、ステロイドだけではよくならず、抗リウマチ薬の導入が治療には必須です。

実際の診療現場では…

「PMRっぽい症状」をみたら、血液培養、血管炎のマーカー(MPO-ANCA、PR3-ANCA)、リウマチのマーカー(リウマトイド因子、抗CCP抗体)を追加で提出しておきます。

結果が出るまでは、通常の痛み止め(NSAIDs)を処方して対応します。

検査結果がすべて陰性であることを確認できたら、そこではじめてPMRと診断し、ステロイドの投与を開始します。

ポイント②
  • PMRの基本は、とにかく除外診断です。

診療現場のジレンマ

大事なことなので何度も繰り返しますが、

PMRのキホンは、除外診断です

しかしどれだけ除外を尽くしても、

PMRのなかに血清反応陰性関節リウマチ(リウマチのマーカーが陰性の関節リウマチ)が混入してしまいます。

病状が両者でほぼ同じであることから、区別できないのです。

しかし最適な治療法は両者で異なるので、治療のためにはなんとか区別しないといけない。

これは、診療現場のジレンマともいうべき問題です。

同じ60代男性で、病状もほとんど同じだった2つのモデルケースを紹介します。

ケース① 60代男性

2か月前から四肢近位部のこわばり、 多関節痛が出現してきました。

近医でリハビリを受けるも改善なく、当院外来を受診されました。

診察では右上肢挙上困難で右肩インピンジメントサイン陽性、手指屈筋腱鞘炎、多関節炎(手・MCP関節)を確認しました。

採血ではCRP 5.50mg/dl、血液培養陰性、MPO-ANCA・PR3-ANCA・RF・抗CCP抗体すべて陰性でした。

PSL15mg内服を開始したところ、

2週間後には病状の著明な改善(速やかな寛解)が得られ、

最終的にPMRと診断しました。

その後もPSL単剤で治療を継続し、現在も寛解を維持しています。

ケース② 60代男性

1か月前から四肢近位部のこわばり、多関節痛、発熱が出現してきました。

近医でNSAIDs処方を受けるも改善なく当院外来を受診されました。

診察では上肢挙上・起立動作困難、手指屈筋腱鞘炎、多関節炎(手・膝・足・MTP関節)を確認しました。

採血ではCRP 9.38mg/dl、血液培養陰性、MPO-ANCA・PR3-ANCA・RF・抗CCP抗体すべて陰性でした。

PSL15mg内服を開始したところ、

2週間後には病状の改善は全く得られず、

最終的に血清反応陰性関節リウマチと診断しました。

PSLを減量しながらリウマチ治療を開始(ステロイド関節注射+IGU25mg+MTX12mg/w)、

疾患活動性がなお残存するためリウマチ治療を強化(トシリズマブ皮下注導入)して、

ようやく寛解を達成しました。

考察

CRP陽性の体の痛みでは、

菌血症、血管炎、血清反応陽性関節リウマチ(リウマチのマーカーが陽性の関節リウマチ)を除外して

はじめてPMRの可能性を考えます。

しかしPMRのなかには血清反応陰性関節リウマチが混在しており、

あらかじめ両者を鑑別することは困難です。

そこで本症例のように、

シンプルなPMR治療(PSL15mg内服)を先行させて2週間行い、

それへの反応性で両者を鑑別して治療法を調整するというアプローチ(診断的治療)をとるほかないと考えます。

ポイント③
  • PMRと血清反応陰性関節リウマチの鑑別は困難だが、PSL15mg内服への治療反応性は参考になる。

よくならない「PMR」

40代女性の話です。

3か月前から両膝、腰まわり、前胸部に痛みが出現し改善しないため、近くの整形外科クリニックを受診されました。

採血で炎症反応を認め、「リウマチ性多発筋痛症(PMR)」の診断でステロイド内服が開始されました。

しかしその後も病状は一向に改善せず、日常生活にも支障をきたすようになり、
セカンドオピニオンを求めて、私の外来を受診されました。

診察では…採血では…PMRらしい点を挙げると、

  • 立ち上がり動作が困難
  • 腰椎棘突起部と両側大転子部(滑液包がある部位)に圧痛を認める
  • CRP陽性
  • 血液培養陰性
  • 血管炎やリウマチのマーカーは陰性

一方、PMRらしくない点を挙げると、

  • 発症年齢が若すぎる
  • 首・肩には症状がない
  • ステロイド内服が無効
  • 左胸鎖関節に腫脹・圧痛を認める

 

PMRの本質は、ステロイド内服だけで速やかによくなる点にあります。
ステロイドが効いていない時点で、そもそもPMRではありません。

 

PMRらしくない点に着目する

本症例の胸部MRIでは…両側の胸鎖関節に炎症(T1で黒くSTIRで白くうつる)を認め、

胸鎖関節炎の存在を確認しました。

胸鎖関節炎は、ふつうPMRや関節リウマチではみられませんが、

早期の脊椎関節炎でよくみられることが報告されています(J Rheumatol 2012; 39: 1844-1849)。

再評価

脊椎関節炎の特徴を整理します。

[病歴]
・45歳未満で3か月以上持続する腰背部痛
[関節所見]
・画像上の仙腸関節炎(レントゲン、MRI)
・下肢優位の末梢性関節炎
・付着部炎(とくに踵)
・指趾炎(ソーセージ指)
[関節外所見]
・CRP高値
・ぶどう膜炎
・皮膚病変(乾癬、爪病変、掌蹠膿疱症)
・クローン病または潰瘍性大腸炎
・NSAIDsに良好な反応性
[遺伝的背景]
・HLA-B27陽性
・脊椎関節炎の家族歴

本症例において、脊椎関節炎らしさを探ってみると…

HLAのタイピングではB27陰性でした。

単純レントゲンでは、仙腸関節に異常はありません。

しかし仙腸関節のMRIを撮ると、炎症(T1で黒くSTIRで白くうつる)を起こしていることが分かりました。

さらに股関節のMRIを撮ると、両側大転子部に炎症(STIRで白くうつる部分)を認め、

それは滑液包ではなく、付着部(大殿筋と中殿筋が大腿骨に付着する部位)に一致していました。

つまり大転子部の圧痛の原因は、PMRでよくみられる滑液包炎ではなく、付着部炎だったのです。

以上、本症例の脊椎関節炎らしい点をまとめると、

  • 45歳未満で3か月以上持続する腰背部痛
  • 画像上の仙腸関節炎(MRI)
  • 両膝関節炎(既往)
  • 付着部炎(大・中殿筋の付着部)
  • CRP高値

となり、ASAS分類基準に基づいて、

体軸性脊椎関節炎と最終診断しました。

治療経過

治療経過です。

当初は病態がよくわからず、
難治性のPMRとしてステロイドの増量と抗リウマチ薬(MTX)の併用で対応しましたが、
効果は全くありませんでした。

体軸性脊椎関節炎の診断がついてからは、
第一選択薬の痛み止め(NSAIDs)を導入し、腰まわりの痛みはかなり楽になりました。

しかし前胸部痛や炎症反応は残存し、疾患活動性は高いまま(BASDAI5.2)でした。

そこで特効薬であるTNF阻害薬(アダリムマブ皮下注)を導入したところ、
投与した次の日の朝から症状はほぼ消失し、
一発で寛解しました。

有効とされる薬剤(NSAIDsやTNF阻害薬)への良好な反応性からも、
体軸性脊椎関節炎らしさを確認することができました。

ポイント④
  • よくならない「PMR」はPMRじゃない。
  • PMRらしくない点に着目して再評価を行う。
  • 前胸部痛を伴って若年で発症するPMR様症状をみたら、体軸性脊椎関節炎を疑う。

おわりに

自験例をベースに、PMR診療の基本からディープなところまでを紹介させていただきました。

リウマチ診療はもちろん、PMR診療も実に奥深いものがあります。

そのことを少しでも感じ取って頂けたなら幸いです。

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