手足の力が入らない
症状
起立や歩行が困難になったり、日常生活動作が不自由になったりします。急性に悪化する場合と、徐々に悪化して筋肉のやせを伴う場合もあります。
代表疾患
脳卒中(脳梗塞・脳出血)、ギラン・バレー症候群、多発筋炎、筋萎縮性側索硬化症など
“つつみメモ”
・力の入りにくさが一側上肢・一側下肢の場合、神経根障害や単神経の麻痺を考える。頸椎症性神経根症、橈骨神経麻痺による下垂手や腓骨神経麻痺による下垂足など。
・力の入りにくさが全身性・両側性の場合、局所の障害ではなく、系統の障害を考える。
■ 運動ニューロン(神経原性疾患):筋力低下が遠位優位、しばしば両側非対称性。
■ 神経筋接合部(神経筋接合部疾患):筋力低下が近位優位、両側対称性、眼瞼下垂・複視を伴いやすい、日内変動・日差変動。
■ 筋(筋原性疾患):筋力低下が近位優位、両側対称性、CK上昇。
※例外として、
☑ 近位筋優位に障害される神経原性疾患:脊髄性筋萎縮症、球脊髄性筋萎縮症、Hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement
☑ 遠位筋優位に障害される筋原性疾患:筋強直性ジストロフィー、眼咽頭遠位型ミオパチー、三好型遠位型筋ジストロフィー、GNEミオパチー(縁取り空胞を伴う遠位型ミオパチー)など
筋力低下のパターン
<上肢の遠位筋> ペットボトルのふたが開けにくい
<上肢の近位筋> 洗濯物干しや洗髪などで腕をあげているのが大変
<下肢の遠位筋> 段差などでつま先がひっかかりやすくなった、つま先立ちができなくなった
<下肢の近位筋> しゃがんだ姿勢や座面の低い椅子からの立ち上がりが大変、階段の昇り降りが大変
<呼吸筋> 少しの運動で息切れしやすくなった、仰向けで寝るのが苦しい
<腹筋などの体幹筋> 臥位からの起き上がりの際に、いったん横向きになってからベッド枠につかまって起きる、台所仕事などで立位を保持していると前かがみになってきてしまう
・病歴聴取から片麻痺を疑う場合、上肢についてはいわゆる上肢Barre試験を、下肢についてはいわゆる下肢Mingazzini試験を行う。
・病歴聴取の段階で、上肢全体あるいは下肢全体の麻痺/筋力低下ではなさそうであれば、徒手筋力テストMMTで細かく筋力を評価し、筋力低下がみられる筋肉の分布から神経根障害なのか、神経叢障害なのか、単神経の障害なのかを判断していく。
・branch atheromatous disease(BAD)は、穿通枝が主幹動脈から分岐する起始部のところに動脈硬化性変化がみられ、閉塞して起こる脳梗塞。好発部位は基底核~放線冠(レンズ核線条体動脈領域)と橋(傍正中橋動脈領域)。発症時に軽症でも、症状の進行や変動がみられやすい。“進行性脳梗塞”。レンズ核線条体動脈のBADでは、MRIで複数スライスにわたる縦長の梗塞巣が認められる。
・脳神経領域に異常がなく、頸部痛を伴うような片麻痺症例では、頸椎硬膜外血腫を鑑別する。
・腓骨神経麻痺で下垂足を呈する。前脛骨筋と長母趾伸筋の筋力低下がみられて、腓骨神経麻痺なのかL5神経根障害なのか迷う場合には、後脛骨筋の筋力を評価する。
・運動野皮質の局所病変で、下肢単麻痺を呈しうる。
一側性下垂足(drop foot)のDDx:腓骨神経障害、L4/5腰椎椎間板ヘルニアによるL5神経根症(足の底屈内反脱力+)、胸腰椎移行部病変による円錐上部症候群、脳梗塞 〔麻痺が安静(圧迫)後の動作開始時からあったのか、活動の最中に生じたのか、活動時に生じていれば脳梗塞を疑う〕
・亜急性の経過をとる筋原性疾患で、肩甲帯を中心とする体幹筋の筋萎縮が目立つ場合、SRP抗体陽性免疫介在性壊死性ミオパチーを考慮する。筋MRIのSTIR像は、筋生検部位決定に役立つ。
・封入体筋炎は、筋原性疾患ではあるが、上肢では手指屈筋群、とくに深指屈筋の筋力低下がみられやすい。封入体筋炎では、臨床的にも画像的にも大腿四頭筋の障害が目立つことが特徴的。
・hereditary myopathy with early respiratory failure(HMERF)は発症早期から呼吸筋力低下がみられる筋ジストロフィーであり、独歩可能なレベルで人工呼吸器管理を要することのある疾患の1つ。HMERFにおいて、大腿筋群のなかで半腱様筋の変性が目立つことが早期診断に役立つ可能性がある。
・筋萎縮性側索硬化症では、短母指外転筋や第一背側骨間筋に筋萎縮や筋力低下が目立つのに対して、小指外転筋が相対的に保たれるsplit handが特徴的である。
横隔膜筋力低下をきたす疾患:GBS、MG、ALS、筋強直性ジストロフィー、抗ミトコンドリア抗体陽性ミオパチー、遅発型ポンぺ病、孤発性成人発症型ネマリンミオパチーなど
首下がり症候群(drop head syndrome)のDDx:① 前頸筋の過剰緊張(ジストニア)による、仰臥位で枕を外しても頭が宙に浮いたまま(Air pillow sign)⇒ MSA, PD, isolated cervical dystonia(ICD)など,② 後屈筋の筋力低下による ⇒ MG, ALS, isolated neck extensor myopathy (INEM), PM/DM, hyperparathyroidism, 低カリウム血症など
・下肢近位筋の易疲労感と筋力低下、深部腱反射低下がみられる症例で、自律神経症状(口喝、勃起不全、発汗障害、便秘など)を伴う場合やMMTにおける筋力低下の程度に比して日常生活における障害が強い場合には、ランバート・イートン(Lambert-Eaton)筋無力症候群を考慮する。減弱あるいは消失している腱反射が10秒間の強収縮後に増強されるpost-exercise facilitationを確認する。
・眼瞼下垂=重症筋無力症ではない!慢性経過の眼瞼下垂で、日内変動や日差変動といった神経筋接合部疾患の特徴が明確でない場合には、家族歴をよく聴取する必要がある。
顔で診断できることが多い筋疾患:筋強直性ジストロフィーDM1、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィーFSHD1,2、眼咽頭型筋ジストロフィーOPMD、先天性ミオパチー(ネマリンミオパチーなど)、福山型先天性筋ジストロフィー
Facial involvement in congenital myopathies. (A) Pronounced facial weakness, particularly affecting the lower face and mouth resulting in craniofacial dysmorphism (“myopathic facies”) in sisters aged 6years and 3months with autosomal recessive nemaline myopathy (likely due to nebulin). (B) Ptosis and ophthalmoplegia in a patient with DNM2-related centronuclear myopathy at age 9years.
